【本】『老女の聖なる贈りもの』 プリシラ・コーガン著
2008.08.11(Mon)


「あんたを取り囲んでいるものは、すべて命なんだ」



老女の聖なる贈りもの老女の聖なる贈りもの
(1999/04)
プリシラ コーガン

商品詳細を見る


心理学博士の女医、メギーは39歳。
離婚を経験して傷ついた彼女は、ニューヨークの病院の精神科部長の職を捨て、
北ミシガンにある先祖代々から受け継いだ家に引きこもり、
親友の女性と共に、小さな診療所でセラピストをしています。
そんなメギーの元に、新しい患者の依頼が。
患者はネイティヴ・アメリカンの老女で、「2ヵ月後に自分は死ぬ」と宣言しています。
メギーは週2回のカウンセリングを引き受けますが―。

一言で言ってしまうと、“ネイティヴ・アメリカンの教え”本です。
老女ウィノナはスー族なので、スー族の伝統的な考え方や儀式の方法が語られていきます。

印象に残ったのは、女性の月経に対する考え方や、男性と女性についての考え方。
男には女が、女には男が必要だという理由も。
あとキリスト教についての考え方も面白かったです。

離婚をして男性不信となり、女性としての自分にも自信を失くし、
年齢的にも人生の半ばに差し掛かった、メギーというひとりの白人女性が、
ネイティヴ・インディアンの老女とのカウンセリングという名の触れ合いを通して、
様々なことに気付いていくことになる、という内容。
個人的には、メギーの私生活の描写が多すぎたかなと。
田舎の家で過ごす描写はとても魅力的ではありましたが。
もっとウィノナの言葉を聴きたかったです。

ネイティヴ・インディアンの本というのはほとんど読んだことがないのですが、
この本のような女性を中心にした作品というのは珍しいのではないかと思いました。
20代後半以上の女性なら、読めば何かしら得るところがあると思います。

著者はチェロキー・インディアンの男性と結婚した白人女性医師です。
西洋医学を身に付けた著者が自らの体験に基づいて書き上げた作品で、
単なるネイティヴ・インディアン思想礼賛という内容になっていない点も良かったです。
女性におすすめの本でした。
【本】『チョコレートはもういらない』 アラモ・オリヴェイラ著
2008.08.08(Fri)


「持って行って、ゴミに出してくれ。食べちゃいかんぞ。毒が入っているかもしれんからな!」



チョコレートはもういらないチョコレートはもういらない
(2008/05/22)
アラモ オリヴェイラ

商品詳細を見る


良い作品でした。

主人公は米国カリフォルニアの老人ホームに入っている、ジョー・シルヴィア。
ジョーはポルトガルのアソーレス諸島テルセイラ島の生まれ育ち。
第二次世界大戦中、島に設置されたアメリカ空軍基地でアメリカの豊かさに触れ、
ジョーは42歳にして家族と共に、アメリカへと移住します―。

高齢で余命幾ばくもないことを自覚しているジョーが、
老人ホームで自分のこれまでを振り返る、という形式となっています。

移住・移民がテーマとなっており、
アメリカ人になりきれず、かといって戻れば島に違和感を感じ、
故郷アソーレスとアメリカとの間で揺れ続けたジョーの心のうちを、
アメリカ人となった子供達との関係を通して描いています。

4人の子供達それぞれのエピソードが登場し、
最後には最愛の妻の話が。

老人ホームの部屋から大きく広がっていく物語に、
ページを捲る手が止まりませんでした。

移住も移民も今の私には関係のない話ですが、
異国に暮らす人の心持ちが伝わってきましたし、
故郷に対する想い、文化の違い、世代の違いによる考え方の違い、親子関係など、
誰にでも通じる普遍的な内容の物語であったように感じました。

良い本を読んだ、と思いました。
【本】『ヴァーノン・ゴッド・リトル―死をめぐる21世紀の喜劇』 DBCピエール著
2008.08.02(Sat)


私を見て苦しめ



ヴァーノン・ゴッド・リトル―死をめぐる21世紀の喜劇ヴァーノン・ゴッド・リトル―死をめぐる21世紀の喜劇
(2007/12)
DBCピエール

商品詳細を見る


アメリカはテキサスの高校で起こった、銃乱射による大量殺人事件。
自殺した犯人と友達であり、現場にいたというだけで、共犯とされた15歳のヴァーノン。
メキシコへ逃避行した挙句に捕らえられ、死刑判決を受けますが―。

テキサスの閉塞感溢れる小さな町で暮らす普通の少年ヴァーノンが、
死刑囚となるまでを描くことで、現代の問題点、を描き出した作品かなと思いました。
物語自体は、フィクションです。

特にマスメディアと、それに操られる視聴者達、という、
現代ではこれ抜きには考えられないマスコミというものに対して、
批判的な考えを示していました。

今時の15歳の少年の、綺麗とは言い難い口語で語られていきますが、
あまりニュアンスが伝わってこなかったのが残念。翻訳って難しいですね。

また、流される一方だったヴァーノンに、
刑務所で死刑囚が語った言葉が印象的だったのですが、
これも多少取ってつけた感が否めませんでした。

もうひとつリアルさが伝わってこなかった点が物足りませんでしたが、
無責任なマスコミと大人達が少年少女を追い込むのだ、ということ、
そして、そんな子供達に対して著者が言いたかったこと、というのは良く分かりました。

この作品は、1999年に米国コロンバイン高校で起こった、
銃乱射事件が下敷きとなっているようです。
事件そのものだけではなく、その後の報道合戦も含めているようなので、
アメリカやイギリス、ヨーロッパなどの人達の方が、
読んでいてリアルさや、マスメディアの問題点を感じ、考えさせられるかもしれません。
口語も英語圏の人達の方がずっと身近に感じられるでしょうし。
そういう意味では原書で読んだ方がいい作品なのかも。

ガス・ヴァン・サントあたりが映画化したら面白いのではないかと思いました。
あ、ガス・ヴァン・サントはコロンバイン高校の事件を下敷きにした映画を撮っていましたね。
2003年度ブッカー賞受賞作品。
【本】『ニューヨーク・チルドレン』 クレア・メスード著
2008.07.22(Tue)


王様の子どもたちはみな裸



ニューヨーク・チルドレンニューヨーク・チルドレン
(2008/03)
クレア・メスード

商品詳細を見る


現代のニューヨークが舞台の群像劇。
テレビ番組女性プロデューサーのダニエール、天真爛漫な美女マリーナ、
フリーライターでゲイの男性ジュリアスは、大学時代からの親友同士。
30歳になる現在も、仲の良い関係を続けています。
そこへオーストラリア人の雑誌編集者と、
田舎から出てきたマリーナの従兄弟である若者が現れたことで、
3人の友情関係に変化が訪れます―。

野心を持った者が集まる大都会ニューヨークでの、
3人それぞれの悩み、友情、仕事、恋愛と、
彼らを取り巻く周囲の人々の夫婦関係、親子関係、家族関係、について描かれています。

登場人物たちが次第に裸にされていく著者の描写はなかなかのものでしたし、
主役の3人と彼らの周囲の人々との絡みが様々な組み合わせで起こるので、
一気に読むことが出来ました。

ただ、登場人物達の苦悩が払拭されるきっかけになるのが、
9.11のテロ事件だというのが、どうなのかなあ、と。
ちょっと都合が良すぎないかなと思ってしまいました。

でも実際にあったことですし、
作品の中では大変効果的に使われてはいるのですが…。むー。

最後の締めくくり方といい、
人々の苦悩と再生の物語、といったところでしょうか。

読んでいる間は面白かったです。
今時のニューヨークの30歳はこんな感じなのかなというリアルさがありましたし、
ぐいぐいと読む進むことは出来ました。
でも、何が残ったかと言われると…。

2006年度ブッカー賞候補作。
【本】『エトルリアの微笑み』 ホセ・ルイス・サンペドロ著
2008.07.02(Wed)


「おまえの名前は、ブルネッティーノ、いずれブルーノになる……」



エトルリアの微笑みエトルリアの微笑み
(2007/10)
ホセ・ルイス・サンペドロ

商品詳細を見る


舞台はイタリア。
病気検査のため、都会の息子夫婦の家に住むことになった老人。
老人は第二次世界大戦中パルチザンとして活躍した、典型的なイタリア男性。
女性を愛し、仲間を愛し、出身地を愛する昔気質な男。
そんな老人は都会での生活が我慢なりません。
ところが、息子夫婦の家で1歳の孫息子と初対面してから、老人の心に変化が現れます―。

はっきり言ってしまうと、よくある“頑固爺さん物語”です。
でもそんなよくある話とは一線を画している点があり、そこがこの作品の魅力だと思いました。

それは、年を取ってなお、自分にはまだ学ぶことがあるのだ!ということを、
この老人が驚きつつも喜んで受け入れているところです。
単なる“頑固爺さん”ではないのです。

都会の生活習慣や、味気ない食べ物など何もかもに毒づきながらも、
女性はしっかりエロティックな視点で眺め、優しく接し、
孫の仕草ひとつひとつに目を見張り、舐めるように溺愛する老人。
そんな頑固爺さんの姿がとても魅力的です。

特に、オルテンシアという女性と知り合ったことで、
女性を真に愛するとはどんなことなのかということを知る辺りは、
私自身が女性であることもあって大変印象的でした。

このオルテンシアという登場人物には惹きつけられました。
穏やかで優しく、愛情深い―。
こういう女性になりたいなと思わされました。

頑固爺さんの心に柔軟さと希望を与えたのは、
パルチザン時代の自分の呼び名と同じ名前を持った孫。
そんな老人に惹かれ、最後の時間を優しく包み込んだ女性。
“エトルリアの微笑み”の理由を理解することが出来た人生。
幸せな人だなと思いました。
読後感が良かったです。