【本】『シャルビューク夫人の肖像』 ジェフリー・フォード著
2008.07.29(Tue)


「あなたは、わたくしの顔を見ずに肖像画を描かねばならないのです」



シャルビューク夫人の肖像 (ランダムハウス講談社 フ 8-1)シャルビューク夫人の肖像 (ランダムハウス講談社 フ 8-1)
(2008/03/01)
ジェフリー フォード

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19世紀末、好景気に沸くアメリカ、ニューヨーク。
肖像画家として成功しているピアンボの元に、新たな依頼が舞い込みます。
依頼主はシャルビューク夫人と名乗り、法外な報酬を約束しますが、
屏風の前から姿を現すことはなく、
自分との会話のみから肖像画を描くようにとピアンボに申し付けます。
承知したピアンボでしたが、彼の周囲に次第に不穏な出来事が起こり始めて―。

作品全体に、ゴシックホラー&ミステリー調の雰囲気が漂います。
姿を現さない謎の女性依頼人、両目が白濁した老執事、
麻薬付けのピアンボの親友の画家、目から血を流して死ぬ奇病、
ピアンボを付け狙う人物。

しかし、単なるミステリー作品として終わってはいません。

シャルビューク夫人はどんな容姿なのか、
ピアンボはどんな絵を描き上げるのか、
奇病やピアンボを危機に陥れる人物は一体誰なのかというミステリーと、
見えないものを描く、ということを通して、
ピアンボが自らの過去を振り返り、
芸術家としての自らを再構築していく過程も同時進行で描かれていたからだと思います。

ただ、読後の感想としては、ミステリー部分の謎解きに無理があったかな、と。
犯人の動機である心の痛みというのが、もうひとつ伝わってこなかったので、
説得力に欠けるというのか…。
こちらの読解力不足なのかもしれませんが。
ピアンボの芸術家としての内面の描写は良かったです。

姿の見えない女性を描く、というアイディアはとても魅力的で、
ページを捲る手が止まりませんでした。
ストーリーを読み進めるのに大変効果的であったと同時に、
芸術家が目に見えない自分の芸術を追い求める姿の比喩でもあったのかなと思いました。

表紙の絵がとても官能的で美しく、作品によく合っていると思いました。
【本】『犬博物館の外で』  ジョナサン・キャロル著
2006.10.17(Tue)
天才建築家が依頼された新しい建築物は、「犬の博物館」だった―。

犬博物館の外で 犬博物館の外で
ジョナサン キャロル (1992/12)
東京創元社

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アメリカ人の天才建築家が中東のある国の王様に依頼された物件は、
「犬の博物館」だった。
王様の遺志を汲み、天才建築家はオーストリアに「犬博物館」を建築することにするが…。

前作『空に浮かぶ子供 / ジョナサン・キャロル、浅羽 莢子 他』に比べると、
物語の世界は小さい。
でもその分シンプルで、
なおかつこれまで読んだキャロル作品の中で初めて物語に収拾が付いたことに驚いた。
これまでの作品は、
読後「これをどう読み取ったらいいのだ…」と途方に暮れたけれど、
今回は読後感に浸ることが出来てしまった。

作品は、天才建築家の心の成長記録兼、
神様(著者)から人間へのメッセージといった感じ。

中東の国王からの依頼を受け、オーストリアに建築する、アメリカ人天才建築家。
様々な人種が集まって建物を作る…というと思い浮かぶことがありますね。
聖書の中の話です。
これも重要なモチーフとなっています。

異文化間で人はどうしたらいいのか、という著者の外側の世界観と、
一人の人間にとって仕事とは何かという、内側の世界観とが、
上手く絡み合ったストーリーとなっており、
読後しばらく余韻に浸ってしまった。

小品だけれども間違いなく佳作。
個人的にはキャロル作品の中で一番好きかも。



1992年英国幻想文学大賞受賞作品

★jonathan carroll公式サイト(英語)
http://www.jonathancarroll.com/
【本】『空に浮かぶ子供』 ジョナサン・キャロル著
2006.10.14(Sat)
自殺した親友から届いたビデオテープと風変わりな美少女の出現―。

空に浮かぶ子供 空に浮かぶ子供
ジョナサン・キャロル、浅羽 莢子 他 (1991/03)
東京創元社

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元映画監督の主人公の元に、自殺した親友からビデオテープが届く。
そこには主人公が幼い頃に亡くした母親の最期の数分間が映っていた。
さらにそのテープには死んだ親友が登場し、主人公に頼み事をする。
そして現れる不思議な美少女―。

キャロルの本を読むのはこれが3冊目だけれど、
今回のこの作品が一番面白かった。

これまで読んだ2冊、
死者の書 / ジョナサン・キャロル、浅羽 莢子 他』と、
炎の眠り / 浅羽 莢子、ジョナサン・キャロル 他』は、
一直線に進む話にダークファンタジーの彩色がしてあるという印象で、
良く言えばシンプル、悪く言えば平坦という感じだった。

でもこの『空に浮かぶ子供』は、
主人公視点で進むストーリーの上に、
他の人間の視点や現在と過去、挿入される魅力的な短編が効果的に絡み合い、
オーガンジーのような何枚もの層で立体的な作品に仕上がっている。
それが個人的には好印象だった。

ただ話の内容は前の2作よりも抽象的且つ、
取り扱っているテーマも多くなっていて、
正直ラストに関しては今でもどう捉えたらいいのか考えてしまっている。

「悪」や「死」、「人生」、「友情」等々について、
魅力的な、
あるいは意表を突かれるセンテンスや個所が多いのだけれど、
書くだけ書いておいて、結局それらの収拾が付いていないという感じ。
何となく分かったような気になるのだけれど、
読み終えるとすっきりしない。

これまで読んだキャロルの作品はどれもそうで、
はっきりと分かりやすいラストで終わることがない。
含みを持たせて、あとは読者にお任せという感じ。
意図的なのか、
単に話のまとめ方、終わらせ方が下手なのかがよく分からない。

また、3作品のどれもが、
「主人公がストーリーを仕上げる破目になる」、
という点で共通しているのは興味深い。
著者に聞いてみたいところ。

★jonathan carroll公式サイト(英語)
http://www.jonathancarroll.com/
【本】『炎の眠り』 ジョナサン・キャロル著
2006.10.05(Thu)
三十数年前に死んだ男の墓に彫られた肖像は、僕の顔だった―。

炎の眠り / 浅羽 莢子、ジョナサン・キャロル 他
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ジョナサン・キャロルのダークファンタジー第三作目。

ドイツに暮らすアメリカ人ウォーカーは俳優兼脚本家。
運命の女性と出会った直後から、奇怪な事が起こり始める。
その理由を知るために会ったシャーマンのヴェナスクによって、
自分の前世を知ることになる。

ここまでが第一章「馬を盗む」で、
奇怪な出来事とヴェナスクとの触れ合いが中心になっている。

この後が第二章「おのが過剰」。
自分の前世すべてを見ることが出来るようになったウォーカーは、
己の人生を縺れさせている元凶を失くすために行動を開始する。
ここに絡んでくるのがグリム童話『がたがたの竹馬小僧』。

ウォーカーの前世と現世と、
グリム童話を巧みに交差させながら話は展開していき、
遂にラストを迎える。

感想としては、
ウォーカーの前世と現世にグリム童話を絡めたアイディアは面白かったが、
全体的にはまとまりに欠けているような気がした。
第一章と第二章とが上手く繋がっていないというのかな。
あと、この著者の描く主人公や作品世界がどうにも好きになれない。
『死者の書』といい、本人は気付いていないお坊ちゃんのナルシストタイプ。
昔の村上春樹っぽいのだ。
きっと著者もそんなタイプなのだろう。
それでもなぜかこの著者の本があと2冊あるので、
どう変わっていくのか読んでみる予定。

やたらとお洒落振るのが鼻に付く作品だが、
「馬を一緒に盗める人」
という言い回しを知ることが出来たのは良かった。いい言葉。
ドイツの言い方だそうだが、覚えておこう。
【本】『死者の書』 ジョナサン・キャロル著
2006.09.22(Fri)
「あの男の子、はねられる前は笑ってました?」

死者の書
死者の書
posted with 簡単リンクくん at 2006. 9.22
ジョナサン・キャロル著 / 浅羽 莢子訳
東京創元社 (1988.7)
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主人公トーマスは敬愛する天才作家の伝記を書くために、
天才作家が終生愛したアメリカの田舎町を訪れ、逗留することにする。
変わり者と聞いていた作家の娘は美しく優しく、
町の人々もそれなりに愛想が良く、
気持ち良く伝記に取りかかろうとした主人公は、
トラックに跳ね飛ばされる少年を見てしまう。
現場に駆けつけた主人公に町の人はこう聞いた―
「あの男の子、はねられる前は笑ってました?」。

その後作家の娘をはじめとして、
小さな田舎町に漂う不自然さを主人公は感じるようになる。
その不自然さの原因であり理由は、タイトル通り。
この邦題は大失敗でしょう。

種明かしは新鮮味が欠けているし、無理がある。
また、
有名な俳優を父に持っていたことで屈折した主人公の人柄にも、
最後まで好感が持てずじまい(自意識過剰で自己中心的)。
私はこの作品を好きにはなることは出来なかった。

ところどころでファンタジー・ホラーとして印象的な描写はあるものの、
全体的にはファンタジーとしてもホラーとしても中途半端だった。

なぜかこの人の本があと数冊あるので、
印象が変わるかどうか読んでみようと思っている。