【本】『土曜日』 イアン・マキューアン著
2008.04.07(Mon)
ああ、恋人よ、せめて我々は
互いに忠実でいよう!
眼前の世界は夢充てる地のごとく
広やかに美しく、新しく見えるけれども、
本当は、喜びも愛も光もなく、
確かさも、平和も、苦痛を和らげるものもない。
我々が立ち尽くす黄昏の平野は
戦闘と敗走の混乱した叫びに満ち、
無知なる軍勢が闇の中でぶつかり合う。
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現代のロンドンに暮らす、優秀な脳神経外科医の男性が主人公。
この主人公の、ある土曜日の1日を描いた内容となっています。
早朝に目覚めたところから、深夜に眠りに入るまでを描いているのですが、
その描写力に圧倒されてしまいました。
作家って凄いな、というのが読後の最初の感想でした。
終始主人公の一人称で語られていくのですが、
仕事のこと、美しく有能な弁護士である妻のこと、
詩作の才能をみせる娘や音楽の才能をみせる息子のこと、彼らとの会話、
手術の話、患者の話、世界情勢や政治について、自分の人生についてなど、
次から次へと溢れるように語られていきながらも無理がなく、
引き込まれてしまいました。
ただ、内容に関してはもうひとつだったかなと。
主人公の1日の心の内側を描くことで、
世界中に大きなショックを与えた9.11のテロ以降の現代を生きる人々が感じるであろう、
幸福や不安や恐怖について述べているのですが、
その代表者として完璧なまでに恵まれている主人公を設定したことについて、
ちょっと違和感を感じたのです。
結局この恵まれた主人公にとっては、どんな災難も高みの見物―、
というようなやっかみの感情を持ってしまったのです。
実際批評家からもこの点はかなり批判されたようです。
でも、あとがきに書かれている著者の言葉によると、
“幸福な主人公”は標準以上の生活を送っている欧米人達の姿を誇張して描いたものだそう。
「満足しきって太った欧米人」の姿を。
だとすると、この小説はかなり皮肉な内容と言える訳です。
世界情勢を心配しながらも、結局は自分の人生のことしか考えていないじゃないか、と。
でも本当に「満足しきって太った欧米人」を皮肉った内容なのか、
テロ以降の現在を生きる人間の不安や恐怖を描いたものなのか、
その両方なのか、
その辺りが私には分からず、その点が内容がもうひとつと感じた理由です。
読後もやもやしてしまいました。
あと芸術が人間の心を動かすものだ、という主張も、
真実だとは思うけれども、多少陳腐に感じたりもしました。
男性はこういうことを考えているのか、という点はとても面白かったです。
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